アステラの民は黄金羊の夢を見るか

新大陸――それは未だに人々が踏査しきれぬ未開の地。

様々なモンスターと、古龍たちが生息している。


新大陸の謎を解き明かすため、人々はアステラに集い、

研究、調査など様々な活動に明け暮れていた――。



「アステラ祭が終わったばかりなのにまた祭り開催されるってほんとなのか?」

集会所の掲示板の前には人だかりが出来ている。

そこに書かれた告知に半信半疑の顔つきなのはハンターのこむぎこである。

鳳陽炎、Jin、おからっぱ、猫夫などの精鋭ハンターたちは告知の内容に首をひねった。


「何々……今回の祭りには、新大陸に訪れるのが

まだ先の予定のモンスターたちがゲストとしてやってきます!

ただし、ゲストなので闘ってはいけません。みんなで祭りを愉しみましょう……え?」


ハンターの仕事はモンスターを狩ることである。

しかし、非好戦的なモンスターもいるので、

全てのモンスターを無作為に殺しまくっているわけではない。


人に害を与えないモンスターは殺さないし、仲良く出来るものなら仲良くする。

それが、今のアステラの流儀である。


実際、アステラではお調子者でいつもみんなを愉しませる

ツィツィヤックが人気を集めているし、

イケボで有名なジュラとドスのキャス配信は女性ハンターたちをメロメロにしているし、

らふぃたんの写真展は閲覧希望者で列が出来るほどなのだ。


モンスターでも仲良しは仲良し。

人とモンスターの垣根を越えた集いはここには形勢されている。


しかし、だからとて全てのモンスターが安全で優しい存在ではない。

危険なモンスターも沢山いたと言われている。


「大丈夫なのか?この祭り」

ベテランハンターのKAMUIは眉間に皺を寄せた。

「いいんじゃないのー?愉しければ!」

そんな風にニコニコしているのはあちゃびっちという女性ハンター。

隣に居る紗良も「だよねー」ってのりで。女性たちはお祭りが好きだし、

気楽なのかもしれない。


「しかもこの祭り、名前のとこがかすれて読めないんスけど?

どうなってるんスか?」

とても陽気な推薦組が掲示板の文字を指で辿る。

『○○○ラ祭』、としか文字は読めなかった。

カプコンの手抜きなのだろうか。


「兎も角、俺たち一般ハンターであれこれ考えても仕方ない。

大団長やソードマスターたちに判断して貰えばいい」

落ち着いたモンハンおじの言葉に、ねこ、みゅー2、ぶりなどが頷いた。



意外なことに、首脳陣はこの祭りに特に異論を挟まなかった。

期間がたったの三日間であることも理由だったのかもしれないが、

特に一般ハンターたちに警戒のおふれは出ず、

人々は祭りを準備を始める事となった。



アステラ祭の時もそうであったが、祭りの準備はハンターだけでなく

友好的なモンスターたちも総動員で行われる。


レイ、液体ライム、おせいはんらが料理長を手伝い豪華な食事をどんどん量産する。

フンコロガシは肉団子を転がす事で貢献した。

彼が手を洗ってから調理に望んだかは不明であるが。


「あっしの出番ですね!」

アプトノスの中でも何故か自称淫乱を名乗りつつも、

なんのかんの皆に好かれているアプノスが一番のりで皿の上にでーんと寝た。

食べられる気満々である。

「俺も俺も!」

オドガロンの肉塊が隣の皿にでーん!

「僕も焼いて!食べて!」

鼻息荒くモスが火のくべられたかまどにダイブ!

「プギーーーーー!!」

負けじと愛玩動物のプーギーまでが煮えたぎる鍋に飛び込む始末。


「待って下さい、みんなが身を呈してくれなくても足りますから!足りますから!」

みんなのママと呼ばれる蛍があわあわと止めたが、

みんな美味しいご飯に変身していった……。



飾りつけの方も順調である。

高いところの飾りはふわふわ漂えるえぼしが運んでいく。

花飾りをせっせと量産しているのへらさんだ。

ほっこりとあにやんはそんな小さな二人のサポートをしている。

美しい花で彩られた素敵なお祭り会場が完成した。



「ちょっと瘴気の成分変えてフローラルな香りにして会場に流そうかな」

しょー君はそんなお茶目を考えている。

「え、お前マジそんな器用なことできるの?」

ツッコミ役は言わずと知れた名コンビの片割れ、酸さん。

「できるできる。気合で」

「気合かよ?!」

相変わらずお気楽極楽、仲良しな二人だった。



さて、そんなこんなで祭り当日。総司令を始めとする首脳陣、一般ハンター、

そしてモンスターたちも勢ぞろいして、

ゲストとしてやってくるという旧モンスターたちを待った。


ゾラ・マグダラオスだけは大きさ的に会場に入れないので、

遠くから見守るという参加になってしまったが、

彼は彼なりに静かに祭りを楽しみにしているようだ。



ばさり。羽音が響く。


ゆっくりと上空から、2つの影が舞い降りた。


それは同じ種類のモンスターであるが、印象が全然違う。


一人は気品に溢れ、悠然とした出で立ちで地に脚をつけて。

一人はニコニコと親しげな笑みを称え、きゅるりんと可愛く立ち。


共通しているのは、どちらも炎塵を纏い、美しい姿をしていること。

そう――彼女たちは炎妃龍と呼ばれる古龍、ナナ・テスカトリである。


「こんにちはっ♪優しさ可愛さナナ・テスカトリですっ♪

ポッケ村から来ました、よろしくねっ」

きゅるんと可愛い挨拶とウインクが会場に飛んだ。

まさにピンクのハートともに。

それが、男性たちの心を鷲づかみにしないはずがない。

みんなが二人に注目する中。


「か、可愛い……!!ハニー!!結婚して!!」

一目惚れしてしまったダーイシがナナさんに駆け寄る。

が、それをフッと息で弾き飛ばしたのは姉さんの方であった。

「うぉー…うぉー…うぉー…」

ご丁寧に、ダーイシが倒れる時の台詞をスト2風に表現することも忘れない。

気品と面白さの混在するのが姉さんの魅力だ。


モンスターたちが来るというからもしかして、と心配していた人々をよそに、

アイドルのような二人の登場で場の空気は一気に明るくなる。

「あーあ、目立ちやがって」

そんな風に姉の派手な登場に溜息をついたのはムジャカであったが。


続いてガルルカ、モノブロス亜種が姿を現した。

「みんな、キャスでもりあがろーっ!」

ガルルカの明るいノリに、会場はわっと華やいだ。

旧友であるモノ亜種に逢えて、ボロ子は歓喜している。

その隣には老トビカガチがそっと寄り添っていた。

二人は仲睦まじき夫婦である。


「アアアアアア!俺踊る!」

パリピ個体のガジャが、小さな身体でくるくると舞い始める。


「楽しそうであるな。余も混ぜてくれ」

ショウグンギザミがのそりと登場した。

「将軍だ!ギザミさんだ!!」

その堂々たる出で立ちに皆蟹を食べたくな……ったのではなく、

感銘を受ける。


彗星としてしか目撃されたことがないバルファルクまでもが姿を現した時には、

皆驚きで声を失った程だ。しかし、親しげに挨拶する彼に、すぐその空気も和む。


「祭りだ祭りだーーー!」

ワッと歓声が上がり、みんな酒を呑んだり歌を歌ったり、

ご飯を食べたり始めた。


ゆるなぎてゃんのバゼルギウスの真似にはみんなが大爆笑だ。


「ねるにゃん愉しいね!」

「うん、愉しい!!」

プケちゃんと一緒にねるにゃんはケーキを食べている。

ケーキはネギ玉ちゃんが作った特製イチゴのショートケーキである。

「美味しいにゃ、愉しいにゃ。

心配したけど、旧モンスターさんたちもみんないい人にゃ」

臆病なあいるーたんのご満悦。口のまわりとクリームでいっぱいにしつつ、

ケーキをぱくつく。

ちなみにケーキに使われた苺は、

4期団の胸元に飾られていたものであるがそれは知らない方が幸せであろう。


「アタシが作ったツィツィ奴も食べてね♪」

冷奴の上にツィツィヤックの顔が乗っている謎の食べ物を麗子ママがふるまった。

いつの間にツィツィヤックをシメたのだろうか。

もしかしたら麗子ママと仲良しのマスターさんの仕業かもしれない。

ツィツィヤックの尊い犠牲でみんなの腹が満たされていく。


「本当に良かったな。これはとてもいい祭りだ。

モンスターも人も……本来、皆、仲良くできれば一番なのだから」

ハンターの中でも一番のイケメンと噂の相棒さんが、

双眸を細めて呟いた。隣のネロも「そうですね」と言う。


と、その時。みんなの頭上に大きな黒い雲のようなものが射して。

「……こんにちは……」

どこからか響く声。空を見上げると――ヤマツカミがゆっくりと降りてきている。


「オデモ……マゼテホシイ……」

ヤマツカミに潰される!とみんなが逃げ惑い始めると、その足元にどろり。

重油が満ちてきて。わああああ滑る!足を取られる!

ゴグマジオスがやってきている。


二人共、悪気はない。悪気はないけど会場は大混乱!


「きゃー転ぶ!」

「受付嬢さん危ない!」


転びそうになった受付嬢さんを、ピンクのマントの怪しいおじさんが助けた。

ダヨキチである。大活躍である。


「あ、ありがとうございますダヨキチさん。

でも、私のお尻を触ってませんか…?」

受付嬢の言葉にダヨキチは真っ赤になり離れる。

「え、さ、触ってません!!支給品箱を漁る貴女のお尻を盗撮したりはしますが、

触ったりしてません…!!」

「盗撮はしてるんですか……?」

「……!!」


「そんなことより逃げて、逃げて!」

光沢庵の叫びで、二人はやっと逃げ出した。



――阿鼻叫喚の後、ヤマツカミは触手だけで参加することになったし、

ゴグマジオスも重油が垂れないように注意しつつみんなの傍に近寄った。

二人共とてもいい人なので、そんなアクシデントがあったにも関わらず、

すぐにみんなに受け入れられて祭りは再開された。


最後にはティンダロスやヤジュモンといった、この世界っぽくないモンスターたちも

混じっていたけど、みんな気にせず宴を愉しんで夜まで過ごした――……。



――祭りの第一夜が明け、朝。

飲みすぎてみんな二日酔い、頭が痛い。外で寝てしまった者もいる。

そんな中でも真面目に仕事をしている者が一人いた。

集会所の受付嬢、エリさんである。

彼女はいつも誰よりも早く起き、新大陸ニュースをチェックしている。

テレビを見ていた彼女の表情が、サッとかわった。

「これは……皆さんに伝えないと」


何かが、始まっている。


「皆さん、聞いて下さい。地脈の黄金郷という場所が発見されました。

どんなモンスターがいるのか、まだ詳細はわかりませんが…

新しい武器や防具の素材となる未知なる金属があるようです」


首脳陣、そしてハンターたちの前で凛と背筋を伸ばし、

エリはそう発表した。人々にどよめきが走る。


「すぐに調査団を派遣するべきだな」

「おうよ!お前たちの活躍に期待しているぞ!ガッハッハ!」


総司令の言葉を受けて豪快に笑う大団長は相変わらず自身働く気は無さ気だ。


「私達が調査に行きます」

くろえ、ぐうといった夫婦でハンターを営んでいる者たちが名乗りをあげる。

すぐに彼らは支度を整え、かの地へと出発した。



「すっごい、これ全部黄金じゃないの?」

調査団が持ち帰った金属はまばゆいばかりの光りを放っている。

まさに金銀財宝だ。

それを目の当たりにし、いぬたんは目をキラキラとさせる。


「コイツは性能のいい武器防具になるぞ。

もっと取ってくれば、みんなの分も作れるだろう」

工房の親方は金属を手に取り満足そうに眺め回した。


「俺だって金色だけど……」

何か寂しそうに呟いたのはドスジャグラスである。

ATMの座を奪われそうで焦りがあるのだろうか。


「そこに危険なモンスターはいなかったのか?」

ソードマスターは興奮気味の皆に対して落ち着いた口調にて尋ねる。

誰もがモンスターは見ていない、と答えた。

「ならいいじゃねえか、素材取り放題ってことだ!

よしみんな!じゃんじゃん取ってこい!ガハハハ!」

「そうね、これはもっと沢山あっていいものだと私も思うわ」


大団長とフィールドマスターの判断もあり、

黄金郷での素材集め活動は全ハンター及び友好的モンスターたちにより、

大々的に行われるようになった。



その事件は唐突に起きる――…


黄金郷の探索が半分以上進んだ時の事だ。

突然、頭上の岩が崩れた。幸いハンターの誰にも怪我はなかったのだが、

そこに見たこともない足跡が……

巨大なモンスターの痕跡が発見されることとなる。



「その痕跡が本物なら、これ以上の探索は危険ではないでしょうか」

エリは美しい顔を不安に歪めている。まだ誰も怪我人も死者も出ていない。

今やめるのなら――…

「そうですよね……みんなの安全を考えると」

いつも元気な受付嬢も言葉を濁す。

これはどれだけ食べても解消されない不安だ。


「――…心配はわかるけど。それでは、黄金郷の事は何もわからないのでは」

そう声をあげたのは青い星――ネロである。

心配そうに瞳を揺らす受付嬢に彼は微笑みかけた。安心させるために。

「ここのハンターは精鋭揃いだ。

みんなできちんと準備をして挑めば、できない事はない」


「……最悪その古龍と闘うことになると思うけど。覚悟はできてるってこと?」

固唾をのんで皆が流れを見守る中、声をあげたのはみルこだった。

ネロは黙って頷く。決意が表情に滲んでいる。

「俺も力を貸そう」

筆頭ランサー、ノナメがスッと手を挙げる。


すると、ひとつ、またひとつ。

群集の中から手があがる。


誰1人、危険を恐れていない。

誰1人、逃げる者なんていない。


「僕たちを忘れて貰っちゃ困るよ?ピカッ」

ツィツィヤックがウインクをかます。

「オデタチモ……チカラヲカス……」

ゴグマジオスが咆哮をあげると、

それは早くも頼もしき勝どきのように聞こえるから不思議だ。


「みんな、乗り込むぞ!!――いざ、黄金郷へ!!」

「おーーー!!」


皆の雄たけびが大地を揺らした。



――その日の黄金郷は、いつもよりも静まり返っているように誰もが感じた。

キラキラと輝く鉱物の光さえ、どこか不気味に感じるのは気のせいだろうか。


痕跡は黄金郷の奥へ、奥へと続いている。

今までは岩で塞がれていて進めなかった所だ。

皆は周囲を警戒しながら進んでいく。


「何が出てこようと俺のこの木箱で……!」

どう闘うつもりなのかさっぱりわからない4期団もヤル気満々だ。

そしていつも通り半裸である。防御力?なにそれ美味しいの?


「僕は絶対みんなを守る……!」

ねるにゃんは胸にぎゅっとネギ玉ちゃんを抱き締めた。


ゴゴゴゴ――……


地を割るような音、激しい揺れがいきなり襲ってくる。

足元が不安定になり、皆地面に手をついた。

「――…っっっ!」


岩壁が壊れる。その先には、赤い溶岩がぐつぐつと煮えたぎっている。

熱風と蔓延する煙に包まれて現れたのは――……


金色の、まぱゆい全身の――…龍。

爛輝龍マム・タロト。


大きな巻き角に、輝かしい鱗。

長く引きずる尻尾はまるでドレスのようだ。

見目麗しき古龍は、ハンターとモンスターたちの前で大きく吼えてから一言――


「我が地を荒らす者たちは誰ぞ……」


空気がピリピリと震える。

その場にいた全てのハンターとモンスターたちは、

彼女の立ち振る舞いから目を逸らせない。


「ここを我が治める地と知っての狼藉か――…」


「待ってくれ、俺達は――…うわッ」

シスムが前に出て話をしようとしたが、無駄であった。

既に彼女は臨戦態勢に入っている。


「言い訳など聞きたくない、小賢しい――…蹴散らしてくれるッ!!」

マムの怒声を引き金に、戦闘の火蓋が放たれた。



マムは巨体であるが、怒りに全身が包まれるとそのスピードは驚くほど速い。

目もくらむような突進に、何人かのハンターが吹っ飛ぶ。


「やったわね、こいつ!!――姉さん、一緒に攻撃して!」

ポッケのナナはもう一人のナナに助太刀を頼む。

姉と呼ばれてイヤな顔をするも、この状況闘わない選択肢はない。

二人は口から灼熱の炎を吐き出した。

それは、マムの顔を舐めるほどの距離に。

が、マムは微塵も揺らぎもしない。


「炎が……きかないッ!」


「ここは任せろ――!」


レイギエナが氷のブレスを吐く!

が、その攻撃もマムは悠然とかわす。

素早く、そして華麗な動きである。

同時、大きな尻尾で薙ぎ払い、転がり、

ハンターたちを蟻のように蹴散らしていくのだから、

まさに最強の名にふさわしいモンスターである。


「マぁムちゅわぁぁん♪」


ツィツィヤックが躍り出た!

必殺?のルパンダーーーーーーーーーイブ!!

……ぱすっ。

ツメの先で弾き飛ばされる。終了のお知らせ。


「なんて強さだ…!ツィツィヤックのセクハラ攻撃もきかないなんて!」

プケちゃんは青ざめているが、普通は効かない!


「好きにさせるか――!」

副教祖が武器を構えて襲い掛かるも、その硬い鱗は攻撃を弾く。


その後も、皆はあらゆる攻撃を繰り出した。

麗子ママのウインクもきかなかった(同性だからだろうか)。

大団長がいればおならで攻撃したかもしれないがいなかった。

4期団の胸の苺も、清少納言も――

とにかく色々なネタは全く歯が立たない。


ネタがわからなくても気にしないで読み飛ばして欲しいぐらい、

マムは強かった。


まさに、最強。

皆が絶望に沈んだその時。


「マムを寝かすんだ。そしてみんなでG爆を頭に置く。

アイツの弱点は――角だ!」


みんなが闘っている間、みルこは冷静にマムを観察していた。

あの身体のどこが弱点なのか。それさえ掴めたら――

すると、彼女は攻撃が角を掠める時、一瞬怯む事に気がついたのである。


「寝かします!」

いぬたんを始めとするガンナー部隊が前に出る。

一斉に放たれる睡眠弾。

逃げようにも、四方から撃たれては流石のマムも太刀打ちできない。


――……ズウン。

黄金の巨体がぐらりと体勢を崩し、揺れ、倒れた。

煌びやかな角は無防備状態である。


ハンターたちが素早く駆け寄る。大タル爆弾Gをその角の前にセット。

いくつもの爆弾が前に積まれた。


「起爆!」


ドカーーン!!目も眩むような爆発が、辺りを包む。

その破壊力たるや、まさに。

マムの角が折れ、ゴロリと地面に転がった!!


「やったぞ……!!」


モンスターも、ハンターも。

皆が皆、手に手をとり喜ぷ。


無敵と思われたマムに一矢報いたのだから。


が、戦いは終わらない。マムがゆらりと立ち上がった。

皆が臨戦姿勢になる。すると――……


「ふ、ふふ……よくやったわ、皆の者。

褒めてつかわず。

よく、我から逃げ出さず皆で力をあわせたな……。

それは褒美じゃ。皆で仲良く――…喰うが良い」


まるで、菩薩のような慈悲に溢れる声。

もう、マムの身体からは殺気が発せられていない。

彼女はふ、と目を細めて微笑むと、

するすると黄金郷の奥へと姿を消した。


「……?ど、どうなったんだ……?」

全員が呆然とする。

さっきまで命掛けの闘いだったのだから当たり前だが。

拍子抜けとはこのことだ。


「ねえ、さっきマムは『喰うが良い』って言わなかった?」

蛍はその言葉が気になって仕方ない。

だって、マムが残していったものは角だけではないか。


Jiokuが恐る恐る角に近づく。手を伸ばして触れると――

「なにこれ。ふわっふわ」


「え、ふわふわ?」

「なにそれどういう」


みんな次々に角に群がる。その角からは、バターっぽい良い香りがした。

そして、触るとふわふわで――…


我慢しきれなくなった陽気な推薦組が角をむしり、口に運ぶ。

「これは………!!う、うまい!!うまいっす!!

こいつは――カステラだ!!」


角と思われたそれは、黄色の塊は――カステラであった!

三時のおやつで定番の!!長崎名物の!!


皆、誰も待つ者はいなかった。

戦闘でおなかが減っていたのもある。

モンスターたちまでもが突進し、カステラに喰らいついた!


パチパチパチパチ……


甘い甘いカステラをみんなが口に頬張った時、どこからか響いた拍手の音。

おばさまこと、フィールドマスターと大団長がそこに立っていた。


「みんな、お疲れ様。とてもいい闘いだったわね。

流石は5期団だわ。驚かせてすまなかったけど――

実はこれ、私と大団長、総司令、ソードマスターが仕組んだことなの」

「ど、どういう意味ですか――」

カステラを頬に詰めながらもコンンを隠せない新米コンが訊ねる。

すると、フィールドマスターが相好を崩す。


「マムさんはね、もともと友好的な古龍なの。

今回、この地で色々な鉱物を提供してくれることになってね。

それを――どうせならお祭りにしちゃえと思って☆」


てへぺろ、みたいに可愛く言うおばさまである。


「鉱物ってこれ、カステラじゃないのーー?」

紗良が突っ込んだ。それに対しておばさまはカラカラと笑い。

「マムさんはね、お料理が得意で。

みんなとのお近づきのしるしに得意料理のカステラを振舞いたいと仰るから――

実技訓練も兼ねて、ね?」


「あ。もしかして」


気付いた人が一人いた。ネギ玉ちゃんだ。

とても聡明な宝玉である。


カステラ。


消えていた祭りの名前。

つまり――…


「そう、カステラ祭りよ☆」


おばさまのウインクと共に、皆が盛大にずっこけたのは言うまでもない……。



こうして、旧モンスターたちをゲストと迎え、

新しいマムさんと新しい土地のお披露目となったカステラ祭りは幕を閉じた。


アホな幕引きであったが、誰も怪我をせず、

誰も死なず、誰もいがみあわず、みんなが仲良い結末――


そう、平和が一番なのであった。


Fin